ドア枠に手をかけて胸を伸ばす。
タオルを背中で持って肩を開く。
巻き肩を治そうとして、こうしたストレッチを続けている方は多いと思います。

その場では肩が後ろに戻った感じがするのに、仕事をしているうちに、また前に入っている。
もし思い当たるなら、原因は伸ばし方ではなく、伸ばしたあとにあるのかもしれません。

先に結論をお伝えします。
巻き肩が治らない人の多くは、胸の前を「ゆるめる」ことはできていても、背中側で肩の位置を「留めておく」筋肉が働いていません。
伸ばすだけでは、肩は元の場所に戻ってしまいます。

巻き肩は、開いたカーテンに留め具がない状態

カーテンを思い浮かべてください。
朝、カーテンを開けても、留め具(タッセル)で留めなければ、少しずつ元の位置に戻ってきます。
何度開けても、留める仕組みがなければ、カーテンは閉じた形に落ち着きます。

巻き肩も、これとよく似ています。
胸を開くストレッチは、カーテンを開ける動作です。
けれど、肩の位置を背中側で留めておく筋肉が働いていなければ、腕の重さや前かがみの作業に引っぱられて、肩はまた前に戻ってきます。

肩の位置は、背中に浮かぶように乗っている肩甲骨で決まります。
肩甲骨のしくみは、肩こりの中心地は肩甲骨だと書いた記事で詳しく紹介しました。
巻き肩は、この肩甲骨が外に開き、前に傾いた位置で固まっている状態とも言えます。

胸を開いても戻る理由

胸の前には、肩甲骨を前に引きこむ小さな筋肉があります。
小胸筋と呼ばれる筋肉で、ここが縮んで硬くなると、肩が前に出やすくなることがわかっています。
胸のストレッチは、この縮んだ側をゆるめるのには役立ちます。

一方で、背中側には、肩甲骨を下げて背骨に寄せ、肋骨に沿わせる筋肉があります。
肩甲骨の間から背中の中ほどにある筋肉や、脇の下から肋骨を包む筋肉です。
デスクワークで腕を前に出し続けると、こちらは伸ばされたまま働く機会を失い、力の入れ方を忘れていきます。

ゆるめた胸と、働かない背中。
この組み合わせでは、カーテンを開けたまま手を離しているのと同じです。
研究や臨床の現場でも、巻き肩の改善には、胸の前を伸ばす運動と背中側を鍛える運動を組み合わせる方法が一般的に用いられています。

B-side GYM の考え方

巻き肩を治すとは、胸を開くことと、
開いた肩をその位置に留めておけるようにすることの、両方です。

巻き肩のチェック方法

自分の巻き肩の程度を、簡単に確かめる方法があります。

1. 立って、手の甲の向きを見る

2. 仰向けで、肩の浮きを見る

あくまで目安ですが、変化を確かめる基準として、最初の状態を覚えておくと役に立ちます。

自分でできる、「留め具」を目覚めさせる運動

胸のストレッチをしたあとに、次の運動を続けてみてください。

壁を使った肩甲骨の引き下げ

大切なのは、腕を後ろに引く力ではなく、背中の下のほうに効いている感覚です。
首や肩の上が力むなら、腕の高さを少し下げてください。
胸のストレッチで開け、この運動で留める。
この順番で行うと、ストレッチの効果が残りやすくなります。

肩や腕にしびれがある、夜も痛む、腕が上がらないといった場合は、筋肉のくせ以外の原因も考えられます。
無理に続けず、まず整形外科で相談してください。

一人では戻ってしまう理由

セッションで巻き肩の方の背中を見ると、背中側の筋肉に力を入れてもらっても、首から肩の上ばかりが働いてしまう方が少なくありません。
本人は背中を使っているつもりでも、実際には肩をすくめて代わりに頑張っているのです。
これでは、留め具を留めたつもりで、別の場所を結んでいる状態になります。

背中は自分の目で見えないため、どの筋肉が働き、どこがサボっているのかは、一人では判断しにくいものです。
前後の筋肉のバランスについては、猫背・巻き肩の「綱引き」の記事でも書きました。
外から姿勢と動きを見て、縮んだ側をゆるめ、働いていない深い筋肉に正しく力が入る感覚をその場で身体に覚えてもらう。
そこまでできて、はじめて肩はその位置に留まるようになります。

伸ばすことより、留めることを

巻き肩が治らないとき、ストレッチの回数や時間を増やしたくなるかもしれません。
でも、足りないのは伸ばす量ではなく、留める力のほうかもしれません。

渋谷や表参道で一日パソコンに向かって働く方の肩は、知らないうちに前へ前へと引かれています。
開けたカーテンを留めるように、背中の筋肉で肩を支える感覚を、少しずつ取り戻していきましょう。