腰が痛い。

マッサージに行った。整体にも通った。その場は楽になるのに、数日でまた戻る。ストレッチをしても、湿布を貼っても、根本的には変わらない。

もし心当たりがあるなら、ひとつ、疑ってほしいことあります。

その腰痛の原因は、腰にないかもしれない。

腰をいくらほぐしても戻るのは、痛んでいる場所と、原因の場所が、違うからです。腰は、被害者のほうです。

体を支えているのは、骨ではなく「圧」

そもそも、私たちの上半身は、何によって支えられているのか。

背骨だと思われがちですが、背骨だけでは、あの重い上半身を安定して支えられません。積み木を高く積んだようなもので、それ単体では、少し揺れただけで崩れます。

背骨を内側から支えているのは、お腹の中の「圧」です。

横隔膜が上のフタになり、骨盤の底の筋肉が下のフタになり、お腹まわりの深い筋肉が壁になる。この囲まれた空間の中に圧が満ちると、体の内側に、天然のコルセットができあがります。これを腹圧呼びます。

この圧が、背骨を内側から支え、腰にかかる負担を逃がしている。腰痛と無縁の人は、たいていこの圧が、きちんと働いています。

腹圧が抜けると、背骨で固めるしかなくなる

問題は、この腹圧が抜けたときです。

内側の圧で支えられなくなった体は、どうにかして上半身を支えなければいけない。そこで何をするかというと、背骨まわりの表面の筋肉を、力ませて固めるのです。

現場で腰痛の人の体を見ていると、これがよくわかります。腰の表層、背骨の両脇の筋肉が、板のように張っている。内側の圧という土台を失った体が、外側の筋肉を常に緊張させて、無理やり体を立てている。

面白いのは、腰痛を抱える人ほど、「いい姿勢でいよう」とする傾向が強いことです。背筋を伸ばそうとして、腰を反らせる。ぴんと胸を張って、正しく立とうとする。とても真面目な人たちです。

でも、その「いい姿勢」こそが、落とし穴になっている。

背筋を伸ばそうと腰を反らせるとき、使っているのは、まさに背骨の両脇の筋肉です。腹圧で内側から支える代わりに、腰を反らせて外側の筋肉で固め、良い姿勢を演出している。本人は正しいことをしているつもりで、腰を痛める側の筋肉を、一日中働かせ続けているのです。

これは、実際に慢性腰痛の研究でも指摘されていることです。腰痛を抱えた人は、腹圧のメカニズムをうまく使えず、代わりに背骨まわりの筋肉を過剰に働かせて代償している。良い姿勢でいようとする努力が、その代償を、さらに強めてしまう。

考えてみてください。一日中、腰の筋肉を力ませて頭と上半身を支え続けたら、どうなるか。その筋肉は、休むひまなく緊張し、疲れ果て、悲鳴をあげます。

それが、腰痛です。腰の筋肉が悪いのではなく、腹圧という土台を失ったせいで、腰の筋肉が働かされすぎている。だから、その腰だけをほぐしても、土台が戻らない限り、また同じように固められ続けます。

固める体は、思考まで固くする

ここから先は、私が現場で感じていることに、少し研究の話を重ねます。

体を固めて、腰に痛みを抱え続けることの影響は、腰だけにとどまらないようです。

慢性的な腰痛を持つ人は、実行機能や、思考の柔軟性が低下しやすい。そういう関連が、複数の研究で報告されています。まだ因果関係がはっきり証明されたわけではありませんが、興味深いことに、慢性痛でもっとも多く見られる変化が、この「思考の硬さ」なのです。

なぜそうなるのか。有力な考え方のひとつは、脳の資源の奪い合いです。

痛みを処理し続けることに、脳はかなりのエネルギーを使います。しかもその痛みが、常に体を固めることから来ているとしたら、脳は休みなく「痛み」と「緊張の維持」に資源を割かれ続ける。その分、本来の思考や判断に回せるリソースが、削られていく。

体を固めている人は、頭も固めている。私が現場で感じてきた実感と、この研究の方向は、きれいに一致します。

判断の柔軟さを武器にする人ほど、体を固めたままでいることのコストは、想像以上に大きいのかもしれません。

なぜ、腹圧は抜けたのか

では、その腹圧は、どうして抜けてしまったのか。

大きな原因のひとつが、呼吸です。

以前肩こりの人は、全身の疲労が取れない」で書いたように、姿勢が崩れると横隔膜が動けなくなり、肩で浅く吸う呼吸になります。横隔膜は、腹圧をつくる上のフタでした。その横隔膜が呼吸で使えていない人は、腹圧の材料そのものを失っている。

呼吸が浅い人は、腹圧が弱い。腹圧が弱いから、腰で固める。ここでも、すべては繋がっています。

一日中座りっぱなしで深い筋肉を使わないことも、腹圧を抜けさせます。使わない機能は、静かに衰えていく。

腹圧は、「力むこと」ではない

腹圧と聞くと、お腹をぐっと固める、力ませる、とイメージする人が多い。でも、それは違います。

力ませて固めた腹圧は、息が止まり、長続きしません。本当に必要なのは、呼吸をしながら保てる、しなやかな圧です。固めるのではなく、満たす。ここを取り違えると、また別の緊張を生むだけなります。

取り戻す順番は、だいたいこうです。

  1. まず、呼吸で横隔膜を動かす。 お腹を前だけでなく、背中や横も含めて三百六十度に膨らませるように、深く吸って、長く吐く。横隔膜が上下に動く感覚を取り戻すことが、腹圧の材料をつくる第一歩です。
  2. 次に、圧を保ったまま動く。 腹圧を抜かずに、手足を動かす練習をします。あお向けで手足をゆっくり動かすような種目で、「圧が抜けない中で体を動かす」感覚を、体に覚え込ませていく。ここが、腹筋運動とはまるで違うところです。腹筋を割ることと、腹圧を保つことは、別の能力です。
  3. 最後に、日常の動作に載せる。 立つ、歩く、しゃがむ、物を持ち上げる。その一つひとつを、腹圧が抜けない体で行えるようにしていく。ここまで来て、はじめて腰は、固める仕事から解放されます。

こうした、呼吸と体幹と動きをつなげて鍛え直すやり方を、機能的トレーニング呼びます。腰痛のためにやるべきは、腰を鍛えることでも、ひたすら安静にすることでもなく、抜けた土台を組み直すことです。

B-side GYM の考え方

痛む場所を揉む前に、支え方を変える。
腰痛から抜け出す入口は、腰の外にあります。

腰痛は、体の支え方が出しているサイン

腰が痛いのは、腰が弱いからではありません。体の支え方が、間違った方に傾いているというサインです。

腹圧という内側の土台が抜け、腰の筋肉が身代わりに固められ、その緊張が痛みになり、やがて思考の柔軟性まで奪っていく。

裏を返せば、土台さえ組み直せば、腰は本来の役目に戻れる。固めなくてよくなった体は、動きも、そしておそらく思考も、また軽くなっていきます。

痛む場所を揉む前に、支え方を変える。

腰痛から抜け出す入口は、腰の外にあります。