触れると、
硬い。

「寝ても疲れが取れない」

そう話す経営者の身体には、ある共通したサインがあります。

触れると、硬い。

肩でも、背中でも、太ももでもいい。どこでも構いません。
押してみると、板のように張っている。
本人は気づいていないことがほとんどです。

私はこのサインを、かなり信頼しています。

眠れているかどうかは、睡眠時間を聞くより、身体に触れたほうが早い。
それくらい、睡眠の質は身体の硬さに出ます。

そして、この硬さこそが、眠れない原因の入り口だ考えています。

硬くしているのは、
筋肉ではない

多くの人が、身体が硬いのは筋肉のせいだと思っています。

半分は正しく、半分は違います。

硬さの正体は、筋肉を包んでいる膜のほうにあります。
ファシア、日本語では筋膜と呼ばれる組織です。

全身を、頭のてっぺんから足の先まで、一枚のタイツのように覆っている膜。
筋肉も、内臓も、骨も、この膜の中に収まっています。

このファシアが、ストレスに反応します。

危険を感じると、身体は交感神経を優位にします。戦うか逃げるかの、臨戦態勢です。
このとき、ファシアの中にある細胞が働いて、膜そのものが縮んで硬くなることがわかっています。

つまり、緊張している身体は、意志とは関係なく、内側から硬められている。

経営者の身体が硬いのは、運動不足だからではありません。危険がないのに、危険を感じ続けているからです。

前に、緊張が抜けない経営者の身体について書きました。
あの「戻れない身体」の、もう一段深いところで起きているのが、このファシアの硬化です。

硬くなると、
身体のセンサーが狂う

ここからが、本題です。

ファシアは、ただ身体を包んでいるだけの膜ではありません。

この膜の中には、無数のセンサーが埋め込まれています。
今、自分の身体がどんな姿勢で、どこに、どれくらいの力で存在しているのか。それを感じ取るセンサーです。

固有感覚と呼ばれます。

目を閉じても自分の手の位置がわかるのは、このセンサーが働いているからです。
自分の身体の地図を、常に読み取ってくれている。

ファシアが硬くなると、このセンサーが正しく働かなくなります。

地図の読み取りが狂う。
すると身体は、自分がどれくらい力んでいるのかを、正確に把握できなくなります。

力を抜いているつもりで、抜けていない。

これが、緊張が抜けない身体の中身です。
センサーが狂っているから、「今、力が入っている」という信号すら受け取れない。だから抜きようがない。

無駄な力が入り続け、身体全体がさらに硬くなる。硬くなれば、センサーはもっと狂う。
この悪循環の中に、眠れない身体は閉じ込められています。

だから、
いくらリラックスしても
抜けない

眠れない人ほど、寝る前に努力をします。

深呼吸をする。ストレッチをする。照明を落とす。スマホを置く。

どれも悪くありません。
けれど、多くの場合、効きません。

理由は、もうおわかりだと思います。

センサーが狂った身体は、「リラックスしよう」という号令を、正しく受け取れないからです。
力が入っていることに気づけない身体に、「力を抜け」と言っても届かない。

意志で自律神経を切り替えようとするのは、狂ったメーターを見ながら運転するようなものです。

寝る前の努力が報われないのは、根性が足りないからではありません。身体のセンサーが、号令を受け取れる状態にないからです。

だとすれば、順番が違うということになります。

先に整えるべきは、心ではなく、身体のほうです。

出口は、
身体の側から
開ける

ここに、希望があります。

狂ったセンサーは、動かすことで磨き直せます。

日中に身体を動かすと、固有感覚が呼び覚まされます。
関節を大きく動かし、いろいろな姿勢を通り、力を入れて、抜いて。
この繰り返しの中で、身体は自分の地図を描き直していきます。

センサーが戻ってくると、「今、力が入っている」がわかるようになる。
わかれば、抜けるようになります。

そしてもうひとつ。
運動そのものに、自律神経を整える働きがあります。

意外に思われるかもしれませんが、しっかり身体を動かした後ほど、身体は深い回復モードに入ります。
運動でアクセルを踏み切ると、その反動で、休息を司る副交感神経が強く戻ってくる。
これは研究でも確認されていて、運動を続けている人ほど、この回復側の神経がふだんから働きやすくなることもわかっています。

日中に動かない身体は、夜になっても回復モードに入る「きっかけ」持っていません。

だから、浅くしか眠れない。

緩めて、温める。
それが
入り口になる

私が現場で感じているのは、もう少し先のことです。

ファシアが少し緩んで、温まる。
ただそれだけでも、張りつめていた身体が、ふっとゆるむ瞬間があります。

そのとき、交感神経の高ぶりも、一緒に落ち着いていくように見えます。

膜が硬いから緊張しているのか、緊張しているから膜が硬いのか。
おそらく両方向で、影響し合っている。
だとすれば、硬さのほうから手を入れることでも、緊張の側を鎮められるのではないか。

私はそう考えています。

心を落ち着けようとしても、うまくいかない日があります。
そういう日こそ、身体の側から入る。
緩めて、温めて、センサーを起こす。
そうやって、眠れる状態へ身体を導いていく。

これは、寝る前にやることではありません。日中に、仕込んでおくことです。

B-side GYM の考え方

硬さは、意志ではほどけません。
緩めて、温めて、センサーを起こす。眠れる身体を、日中に仕込む。
それを、長く、隣で。

眠りは、
夜に始まるのではない

もう一度、最初の話に戻ります。

眠れない経営者の身体は、硬い。

その硬さは、危険を感じ続けた一日の、記録のようなものです。
膜が縮み、センサーが狂い、力が抜けなくなる。
その状態のままベッドに入っても、身体は眠る準備ができていません。

だから、眠りは夜に始まるのではありません。

日中、どれだけ身体を動かし、硬さをほどき、センサーを起こしたか。
眠りの質は、そこで決まっています。

もし今、何時間寝ても疲れが取れないなら。

足りないのは、睡眠時間ではないのかもしれません。
日中に、身体をゆるめる時間なのかもしれません。